鋏には「ひねり」と「反り」が必要不可欠です。その「ひねり」を生み出すのが「裏スキ」の技術です。
近年、裏スキ加工は機械化が進み、この技術を手作業で行う職人が少なくなっているのが現実です。しかし、機械の技術力が向上したからこそ、手作業で裏スキを加工する必要がなくなったとも言えるかもしれません。
それでも私たちは、鋏の種類によっては手作業で裏スキを施しています。
なぜなら、手作業で裏スキを加工した鋏は、機械加工されたものに比べて、ひねりを先端にまでしっかりと入れることができるため、髪の毛に負けない力強い切れ味を実現できると信じているからです。

反りを生み出す「曲がりおこし」
どんなに良い刃が付いていても、反りが不適切な鋏では髪の毛をきれいに切ることはできません。反りが強すぎると、鋏にかかる圧力が過剰になり、髪は切れますが、摩耗が早く進み、結果的に永切れには繋がりません。一方、反りが弱い場合、圧力が不足し、先端が切れず、鋏としての役割を果たせません。
私たちは、きめ細やかな調整を施すことで、全体的に滑らかな反りをミリ単位で作り出しています。曲がりおこしは、鋏の使いやすさにも大きく影響します。圧が強すぎると鋏が重く感じられ、逆に圧が弱いと押し切りが起こる原因となります。
理容師や美容師の皆さまが使いやすい鋏になるよう、絶妙な反りを実現しています。

鋏にはさまざまな刃付けが存在します。例えば、ハマグリ刃、平刃、剣刃、鋭角、鈍角などがあり、すべて手作業でお客様のご要望に応じた刃付けを行っています。また、刃線には直刃、柳刃、笹刃などがあり、ウエット・ブラントカットやドライ・スライドカットといった特定の用途に最適な加工を施すことができます。お客様の求める刃付け・刃線を実現するため、細部にわたる調整を行っています。
刃付けと刃線は、鋏の使用目的に直結する非常に重要な加工作業です。そのため、私たちは細心の注意を払いながら、ひとつひとつ丁寧に作業を行っています。手作業で施された刃付け・刃線は、大量生産で作られた鋏にはない独特の切れ味と切れ感を実感していただけるはずです。

鋏は二枚刃で構成されているため、裏押しという作業工程が必要不可欠です。その裏押しに使用するのが「砥石」です。砥石が鋏に合っていなければ、鋏は最大限のパフォーマンスを発揮できません。
私たちは長年の経験と知識をもとに、数種類の砥石を使い分けて鋏を仕上げています。一丁の鋏を作る際には、単一の砥石に頼ることはありません。作業工程に応じて適切な砥石を使い分けることで、その鋏に最適な切れ味と切れ感を引き出すことができると考えています。

私たちは現在、スーパーゴールド2（SPG2）、コバルトスペシャル（CoSP）、コバルト合金（VG10）の3種類の鋼材を取り扱っています。
これまで、数多くの鋼材を使用し、研究と試行錯誤を重ねながら鋏を製造してきました。その中でも、この3種類の鋼材は、他の鋼材に比べて鋏に最も適していると考えています。さらに、鋏の種類や用途に応じて、最も適した鋼材を選び使用しています。